年度更新と算定基礎届、何が違う?対応のポイントを解説!
2025.06.27
労務コラム
6月から7月にかけて、労務担当者を悩ませる2つの大仕事があります。それが「年度更新」と「算定基礎届」です。
名前が似ているうえに提出時期も重なるため、「結局どっちがどっち?」と混乱しやすいこの2つ。でも、実はそれぞれ“何を”届け出るかが全然違います。
今回は、「年度更新と算定基礎届の違い」と「よくあるミス・対応ポイント」をまとめてみました。
■ 年度更新って何?
年度更新とは、会社が従業員に支払った1年間の給与額をもとに、労災保険や雇用保険といった「労働保険」の保険料を「確定保険料・一般拠出金算定基礎賃金集計表」を基に計算し、国に「労働保険概算・増加概算・確定保険料申告書」を以て申告・納付を行う手続きのことです。毎年6月〜7月に行われ、前年の実績に基づいた保険料の精算と、今年度の概算保険料の申告をあわせて行います。
年度更新は、労働保険に加入している全ての事業主にとって、法令上の義務であり、従業員に対する雇用保険給付や労災補償を行う等の労働保険制度の適正な運営のためにも、大切な手続きなのです。
➤ 具体的には…
• 対象:労働保険に加入しているすべての事業所
• 提出期間:毎年6月1日〜7月10日
• 内容:
前年度(4/1〜3/31)の「実際の賃金総額」で保険料を“確定”
今年度の「概算保険料」を“見込み”で申告
ざっくり言えば、「去年はこれだけ払うべきだった → 今年はこれくらい払う予定」という2つの金額を申告するイメージです。
■ 算定基礎届って何?
一方、算定基礎届は社会保険(健康保険・厚生年金)の標準報酬月額を決定するための届け出です。標準報酬月額とは、健康保険や厚生年金の保険料を計算するために使われる「給与の目安額」のことで、原則、4〜6月の給与をもとに年1回決まります。
➤ 具体的には…
• 対象:社会保険に加入している事業所
• 提出期間:毎年7月1日〜7月10日
• 内容:
4月〜6月に支払った給与の平均額をもとに、9月からの保険料を決める
つまり、「この3か月の給料平均=標準報酬月額」という形で、従業員ごとの社会保険料が変わるタイミングなのです。
■ よくあるミス&企業が注意すべきポイント
【1】“対象となる賃金”の範囲を間違えている
年度更新では「労働保険料の対象となる賃金」を、
算定基礎届では「社会保険料の対象となる報酬」を計算する必要があります。
・労働保険(賃金)の定義
労働保険における「賃金」とは、使用者(事業主)が労働者に対して労働の対償として支払うすべてのものを指します。ただし、次のようなものは賃金に含まれません。
• 任意的・恩恵的に支払われるもの(例:慶弔金)
• 福利厚生的な給付(例:制服貸与、見舞金)
• 実費弁償的なもの(例:出張旅費、交際費)
・社会保険(報酬)の定義
社会保険の「報酬」とは、労働者が自己の労務の対償として受ける給与(基本給や諸手当等)を広く含みます。
労働保険の賃金と比べて、現物給与も広く報酬に含まれます。一方で、実費弁償的な支給は報酬に含まれません。
この違いを理解せずに、賃金台帳の「総支給額」だけをそのまま使うと、過大・過少な申告になりやすいので要注意です!
【2】休職・時短勤務・出産育児明けなどの“イレギュラー”に注意
■ 休職中で給与の支給がない場合(算定)
休職などにより4月~6月の報酬がゼロの従業員は、「算定の対象外」として別欄に記載する必要があります。誤って通常の算定対象者として処理すると、実態と異なる標準報酬月額となり、保険料の誤徴収や後日の訂正が発生するおそれがあります。
■ 出産・育児休業から復職した場合(算定)
育休からの復職者は、「復職時期・給与の有無・報酬支払基礎日数」によって算定方法が変わります。
算定対応の基本ルール:
• 復職が4月で、4〜6月の3か月すべてに給与支給あり(かつ17日以上)
⇒ 3か月平均で通常通り算定可能
• 復職が6月のみで、4・5月は育休で給与なし
⇒ 6月のみで算定し、報酬月数は「1か月」と記載
• 復職が6月だが、6月の報酬支払基礎日数が17日未満(短時間者なら11日未満)
⇒ 算定対象外(別欄で報告)
!復職後の給与が育休前と異なる場合は、「育休明け月変」の対象になることがあります。
・これまでの標準報酬月額と、育児休業終了日の翌月以降3ヶ月間の報酬平均額に基づい
て算出される改定後の標準報酬月額との間に1等級以上の差が生じること。
・育児休業終了日の翌日が属する月以降3ヶ月のうち、少なくとも1ヶ月における支払基礎日数が17日以上であること(特定適用事業所に勤務する短時間労働者の場合は11日以上)※報酬の平均額を算出する際、支払基礎日数が17日未満の月は除かれます。
これらの処理を誤ると、保険料が適切に決定されず、従業員の将来の給付(例:出産手当金、傷病手当金)に影響するリスクもあります。
【3】電子申請ツールの不具合・誤操作も注意
ここ数年は、e-Gov等の電子申請が主流になっていますが…
• CSVデータの作成ミス
• 提出済みと誤認していたが未送信だった
• 電子証明書の期限切れ
といったIT系の“落とし穴”も増えています。特に複数拠点を抱える企業では、部署間の情報共有ミスがトラブルの引き金になることも。チェックリストやタスク管理ツールで申請状況を可視化しておくと安心です。
■ まとめ:6〜7月の「ダブル申請」は、スムーズに申請できるよう今一度確認しましょう!
年度更新と算定基礎届は、それぞれ保険制度が異なり、対象者・金額・処理方法にも違いがあります。
これらの手続きは、「ただ出せばOK」ではなく、その後の従業員や会社の保険料に直接影響する重要な届出です。処理ミスで従業員の保険料が高くなったり、事業所の納付額に差異が生じると、後から訂正や返金の手間もかかります。
また、「前年データの確定申告」と「今年度の保険料基準の見直し」が同時に行われるこの時期は、企業の人事労務体制が問われるタイミングでもあります。
「どこまでが対象?」「報酬の扱い方が曖昧…」といったご相談、申請代行してほしい等、弊社が伴走支援いたします。
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